人生での経験

「進撃の巨人」の世界から読み解く、壁の中の政治と人口統計調査(考察)

人生での経験

 先日、久しぶりに進撃の巨人を読みました。やはり、いつ読んでも面白いですね。
(個人的に好きな描写は、女型の巨人を捕獲する際のリヴァイ班で、班員達の強い絆を感じられるところです。) 

 「進撃の巨人」といえば、想像を超える生命体「巨人」がフォーカスされた名作漫画(2009-2021)ですが、壁の中にあるが舞台となっています。

 職業柄統計についての学ぶ機会があったのですが、その知識を踏まえて読むと、2009年に10代~20代だったころ、私が初めて「進撃の巨人」読んだときに感じた世界感とは、まったく違った感情が湧いたように思います。そんな大人になって政治を中枢で学んだからこその違和感や感情を綴ってみようと思います。

進撃の巨人の世界で行われる人口調査(国勢調査)とは?

 日本に限らず、国において政治・政策を行っていくうえで最も重要になるのは「人口」といってもいいでしょう。これは、進撃の巨人の世界においても同様です。

  • 壁の中という食料が限られた世界で、どの程度の人口の生活維持ができるのか
  • 兵役制(憲兵)を育てていかなければ、国を守れない(健康な男子)
  • 子孫の繁栄、文明の伝承

 こういった、政策判断や決定のほとんどは、人口(対象者)を基に決定されます。特に命が脅かされている進撃の巨人の世界においてはより重要になると言えるでしょう。

政策において重要になる人口指標(現代)
  • 国内総人口
  • 労働人口(生産年齢人口:15歳以上)
  • 男女の人口  など

城内の人口について

 進撃の巨人における世界観(壁内)の補足として、国内には300万人の国民がおり、取り戻し作戦で250万人くらいまで減ったとありますが、これはあまりにも凄いことです。もちろん、国民の約2割と領土の1/3を…。もちろん、数的な内容も驚愕ですが、今回は人口統計学的視点です。

 エレン達のいる世界で使われている文明(※)を実際の年代に直すと、日本でいう1800年代前半(文明1つをとらえると18世紀~20世紀)くらいのようですが、国内の人口を把握しているということは、パラディ島では人口調査が実施されているわけです。※立体起動装置などの武具を除く生活水準

 また、1作戦で失われた命が50万としていることから、ある程度定期的に人口調査を行っていたといってよいでしょう。実際に、戦争や事故で国民が死亡した場合、死者数の調査や報告が行われますが、失われた命の数ではなく減少後の人口を表現しているため、国内人口を調査している可能性は高いでしょう。

医療が発達していない時代の人口把握における課題

 現代の日本は戸籍制度をもっており、人が出生や死亡した場合には役所へ届け出を行います。そのため、戸籍の数をもとに算出をすればほぼ正確な人口を把握することができます。

 もちろん、明治時代(1800年代後半)には、我が国でも戸籍制度がありました。そのため、進撃の巨人の城内でも、戸籍数などからの算出されている可能性は十分あります。

 しかし、1800年代の日本では、現代と比較して乳幼児の死亡率がとても高く、5歳まで元気に成長することが当たり前ではない時代ですから、乳幼児が死亡したとしても、届け出を行わない人も多かったのです。
 ですから、戸籍数から算出した人口と実際の人口には大きな開きがあり、とてもではありませんが政策に使用できません。

正確な人口把握をしなければならない理由

 壁内の人口減らし政策として、約2割(50万人)の人を壁外に追い出したとのことでしたが、どの基準で追い出すかということかを合理的に決定しなければいけません。

 決定するうえで、最も重要なのは総人口です。必要物資や残量、生産量などから維持できる人口は計算することは難しくないでしょう。この舞台では300万人のうち、50万人は維持できないとなったわけです。

 次に重要になるのは、エッセンシャルワーカーです。医療関係者や第1次産業(農業や漁業)などの職業従事者を失えば、その後の城内の医療体制の維持や食糧生産はできません。当然、文明維持や教育などの伝承者も必要になるでしょう。

 このエッセンシャルワーカーがどの程度残存しなければならないのか。また、現在どの程度いるのかという職業種別による人口まで把握をしていなければ的確な政策は実施できません。

 加えて、政策実施を行ったあと、都市部に人が多く残っては意味がありません。現在の居住空間にいる人達を地区ごとに再分配する必要があります。この地区計画を作成するためにも、人口や職業種別は欠かせない要素です。

城内で人口調査が行われていると言える理由

 その他にも、その後の持続可能な社会の構築をしていくためには、人口だけでなく男女の別、配偶者の有無、年齢の分析は必須ですし、これらをクロス統計できて初めて、人口を大幅に減らすという大きな政策が打てるようになります。

 そして、年齢や職業は年とともに移り変わります。転職をする人もいれば、働き盛りの人がなくなってしまう可能性だってあるでしょう。となると、出生と同時に手続きをする戸籍情報だけで把握できるのは人口や男女の別、配偶者などに限られることから、やはり、定期的な国政調査が行われていたと推察できます。

 蛇足ではありますが、パソコンのない時代で、国民の情報が紙で管理されているような時代にこれらを的確に解析をすることも高度の統計知識が必要になります。情報が多いほどに解析の難易度は上がることになりますが、精度の低い情報だけで50万人の命を決定するわけにはいきませんから、収入・税情報や家族構成など、現代では考えられないほどの強行政治をしていたことでしょう。

 現代の考え方に即さず、税情報と住民情報等の全てを一体化させているとしたら、恐ろしいほどの情報処理を行政が担っているということになります。もちろん、人vs.人でなく、目的を別にする別生命との闘争ですから、ある程度の強行政治は必要です。(大のために小を切り捨てる政治)

 となると、現代の行政を担っているのは、強行力が高く、武力を持つ憲兵であり、最も権力持つ職業となったでしょう。しかし、作中の描写では、治安維持も兼任しており、憲兵の上司は仕事サボってばかりであったこともありその信頼は薄かったと思われます。

進撃の巨人の世界では、国勢調査が必要!

 ここまで、進撃の巨人の世界で行われてきた数々の政策は、戸籍情報だけでは判断ができないことと、精度のある統計調査が行われていないと無策になってしまうことを説明してきました。

 そこで、私は進撃の巨人の世界で行わていた、人口調査は日本で言う「国勢調査」であるという仮説を提唱します。

どうやって国勢調査を敢行するか

 彼らの国における国勢調査でも、市役所、町役場といった土地に詳しい人が任命しましょう。

 しかし、憲兵が強行的主導権を持っていた可能性も高いことから、事実上は、地元の自治会長などが、取りまとめて報告する義務を負わされるような形になっていたでしょう。そのような、強制力を国民に押し付けることで、辺鄙な場所まで事細かに調べあげ、建前でなく実態に即した報告を求めていたはずです。

 作中では、サシャ出身の超田舎はどこに誰が住んでいるの?レベルなので、それぞれの役場を通して依頼を行う形式ではあるはずです。※サシャは、狩猟民族で移動も定期的にしているみたいではありますが。

国勢調査員の教育、指導

調査員の数は12,500人/250万人

 次に、これだけ重要な政策を決定するのですから、調査員の教育が必要です。

 日本の市町村の規模は、数十人の村から数百万人の政令指定都市まであります。強行政治ができるこの国では、ある程度均等に区画整備を行うでしょう。一方で、コアフィールドとサテライトフィールドなど権力を有する国民と貧困層の国民を財力や職業で区別することは歴史が証明しています。

 では、区画を管理するための人口配分を推察するため、

  • 失われた50万人(逃げ切れた+α)が住んでいた土地が国の1/3
  • 日本の自治体の平均的規模が5万人/自治体(1億1千万人/1741自治体)

 という条件を踏まえると、残りの2/3の領土に250万人が住み、約50の区画に整理されていたこととなります。現在の日本も47都道府県ですから、中分類の数としては妥当といえるでしょう。

 これらを富裕層と貧困層で面積に重みづけを行えば、恐らく3万人/区画~7万人/区画程度となるわけですが、計算上は平均の5万人/区画で考えていきます。

 人間の管理できる事項の数は7±2(マジカルセブン)と言われ、5~9だと言われています。つまり、自治会長から指名された調査員が1日に調べることができる世帯数は7世帯/日程度です。

 国政調査が1か月程度で実施されていたとすれば、1人の調査員が調べることができる世帯数は、7×30日の210世帯。1区画につき、250人体制で毎日調査して1か月で5万人の調査を行うことになったでしょう。

調査員を教育し、結果を取りまとめる

 12,500人にものぼる、調査員の育成をするのは国勢調査の価値と意義を理解している人です。憲兵が武力を有している一方で、政治に近い人「官僚」に位置する人が教育をしていたはずです。

 現在の日本における、国勢調査は5年に1度。10月1日零時現在を基準とするので、回収は原則10月1日以降です。

(ちなみに、現実の世界でも5年に1度実施できる国はほぼ日本しかありません。あの大国アメリカでさえも10年に1度です。)

 調査員が基準日よりも前に、調査世帯に対して調査票を配布し、と回収の約束をして、それまでに書いてもらう形式です。これだけ技術が進歩している現代でさえ、この手段をとっているのですから18世紀にこの手法以上の手段はないでしょう。(現在は、インターネット回答も可能です。)

 そして、調査票を自治会長や役人がとりまとめ、調査票の書いた内容に誤りや漏れがないかのチェックと集計を行って、人口や就業の状態等が結果として出るというものです。

 しかも、法の整備が不十分であるこの国で、また、食料が不十分であるせかいですから夜盗や強盗にあうリスクも捨てきれません。調査員が夜道を一人で歩き、誰だかわからない世帯を訪問するので事件事故に巻き込まれるリスクもあり、よほど治安の良い国か強行政治でないと実施は困難です。

 主に現代の手法を紹介してきましたが、ほかにも多くの課題があるでしょう。

国勢調査は大事

 お分かりかと思いますが、この記事では何が言いたいわけでなく国勢調査の大切さと手法について馴染みを持ってもらえたらという趣旨で書いたものです。

 主に統計調査の話になりましたが、漫画や映画、小説のファンタジーの世界を見るときに、人口に注目してみると、その社会構造まで想像できて面白いかと思います。

 現在は、ITの時代ですから、こんな原始的な方法でなく、インターネット回答を駆使した回答で少しでも地域の負担を減らすのも良いかなと思いますが、如何せん、行政とは腰が重いものです。

 作中に名君と言われる統治者が出てくることも多いですが、果たしてそれは根拠にもとづいた政策を実施したからこそ、名君であったのかどうかもイメージできます。
 現実世界でも、どこの国の人口も調べたら、簡単に知ることのできる人口ですが、果たして信頼できる人口なのか、人口に限らず情報は正しいのか取捨選択することは奥が深いと思います。

 ご意見やご質問等あればフォームまで。

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